徳舛瓦店 甍技塾 瓦葺きの魅力

瓦葺きの魅力

2007年夏号 屋根と屋根材 ROOF & ROOFING
2007 夏号 掲載 / 2007年7月15日発行

建築・設計と屋根を結ぶ情報誌「屋根と屋根材 ROOF & ROOFING」(日本屋根経済新聞社 年4回発刊)に掲載している「瓦葺きの魅力」をご紹介します。

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正福寺 山門 (鳥羽市指定文化財)

正福寺 山門 (鳥羽市指定文化財)


【正福寺】
天宝3年(1842)に完成した青峰山(あおのみねさん)正福寺(しょうふくじ)山門は、入母屋造三間一戸の楼門です。昭和47年に鳥羽市の文化財建造物に指定されており、平成17年に修復工事が行われました。真言宗の古刹であり、多数の堂宇が点在する境内の正門として、堂々としたたたずまいを見せています。この屋根の見所は、甍(いらか)の積み方、大棟の見映え、棟込み紋瓦、刀根丸(とねまる)瓦の形状、鯱(しゃち)瓦を揚げていることなどです。
 的矢(まとや)の大工棟梁、中村九造が長い年月をかけて作り上げたこの山門は、各部に多用された彫刻が細部を極め、江戸時代末期の特色をよくあらわしています。またその見事な彫刻は、当時鳥羽藩には過ぎたるものとして、評判であったそうです。

甍の積み方

甍を積んだ大棟と全景

正福寺山門の大棟には甍が積まれています(写真1)。甍を積む場合、甍巴瓦はその下の地葺きの素丸瓦と隙間なく納めるのが一般的ですが、地域によっては甍の下に熨斗瓦を数段積んで台とする場合があり、正福寺山門の場合も、甍の下に熨斗瓦を2段積んで独特の雰囲気を出しています。  甍は軒先に使用する瓦(唐草軒瓦・平瓦・軒巴瓦・棟面戸瓦)をそのまま大棟や露盤下に使った場合の名称で、飾りとしてだけではなく、棟の台としての機能も果たしています。  甍は本葺き瓦の屋根ばかりではなく、簡略(桟瓦)葺きの屋根にも使用されます(写真2、3)。また、雨水を切る役目として大棟の上方に甍を積む例もあり、その場合の甍を上甍(下にある方を下甍)と呼んで区別しています(写真4)

簡略葺きに簡略甍瓦を積んだ例 簡略葺きに本葺き甍瓦を積んだ例 上甍と下甍の例


大棟の見映え
 経の巻鬼瓦を使用する場合は、屋根全体が重厚でおおらかに見えるように設計します。特に重要なポイントは棟の反らせ方で、あまり強く反らせずにどっしりと見せる工夫が必要です。正福寺山門では、大棟の甍の反りを全長(40尺)の400分の1(1寸)として、ほとんど分からないくらいに抑えています。また、鬼際での反り増しは、割り熨斗瓦(総高さ1尺1寸)の2割5分程度(2寸7分)とし、大きく反った熨斗瓦を使用して、熨斗瓦同士の隙間をランダムに見せています(写真5・図 ア ) 大棟の見映え



棟込み紋瓦
  棟込み紋瓦は、大棟に二つ(写真6)ないし三つを入れる場合があります。丸いままのものや四角く額縁になったものあり(写真7)、また棟に組み込む場合と後から張り付ける場合とがあります。正福寺山門では、菊の紋の後ろの土台を棟の中に組み込んで積んでいます。  棟込み紋の割り付けは、大棟の鬼瓦の内側から均等割りにすると、中央部分の間隔が狭く見え、屋根がすぼんだイメージになるため、気をつける必要があります。左右の拝み巴瓦の瓦当(がとう)の外面間を均等割りにし、それよりも丸瓦1列か2列ほど外に納めるよう割り付けると、屋根に広がりが出ます。正福寺山門では、丸瓦2列分外側へ納めています。

四角い額縁の棟込み紋瓦2つの例

四角い額縁の棟込み紋瓦3つの例

   


刀根丸瓦の形状
 刀根丸瓦は、掛け瓦の上に葺かれる丸瓦の通称です。素丸瓦や紐丸瓦を、箕甲の落ちのない場合には水平に、箕甲の落ちのある場合にはその深さに合わせて中央で少し外へ返しながら葺かれます。  正福寺山門の刀根丸瓦は変わっていて、丸瓦の片方が袖丸瓦のように下がっており、その形が丸瓦を重ねたように作られています(写真8)。ちょうど抱き丸瓦(写真9)の工法を一体型で作ったような感じとなっています(図 イ )
変わった形の刀根丸瓦 抱き丸瓦の例
箕甲断面図

鯱瓦
鯱瓦鯱は字の通りで、姿は魚で頭は虎、尾ひれは反り返って天を向き、背中には鋭いとげが連なっている想像上の動物です。大棟の飾りとして13世紀半ばに禅宗を通して日本へ伝わりました。鴟尾や鬼瓦などと同じように、建物を守る役目を担っています。波を起こして雨をよく降らせたり、建物が火事の時には、水を噴出して火を消し去ります。

  当初は、仏寺の厨子(ずし)や建物に使われていましたが、安土桃山時代頃からは、城の天主や櫓(やぐら)・門などの屋根に使われるようになりました。城郭に用いた一番早い例は織田信長の建てた安土城です。兵火を逃れるように願って揚げたものでしたが、それ以後はその特異な面貌から、権威の象徴として盛んに使われるようになりました。
正福寺山門の鯱瓦(写真10)は頭から胴体までは瓦でできており、尾のみが銅製です。この鯱の大きさは、頭から尾までの総高さが5尺2寸あります。大棟の経の巻鬼瓦の唐頭(からと)の裏張りの高さが2尺1寸ですので、鯱の大きさは大棟鬼瓦のおおよそ2.5倍になっています。また、大棟の総高さは鬼際で2尺9寸7分あり、大棟の高さの1.75倍になっています。  
 
 正福寺山門は鳥羽市の文化財建造物に指定されているため、今回の修復工事は、以前の形を復元するように施工されています。再使用されている瓦は、鬼瓦、段型刀根丸瓦、菊文様棟込み紋瓦、隅巴瓦、鯱瓦です。



正福寺
三重県鳥羽市の青峰山(標高336m)は、海上守護の霊峰として広く知られています。ここ正福寺は青峰山山頂に位置し、天平年間(729〜748)に聖武天皇の勅願により、僧行基(ぎょうぎ)が開いたと伝えられています。その後、空海(弘法大師)が平城天皇の命により真言宗に改宗しました。旧暦の1月18日には、盛大な祭りが行われ、大漁旗が立ち並ぶなど海上の安全を願う多くの人々で賑わいを見せています。

瓦施工 / 甍技塾 徳舛瓦店 有限会社



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